ミラノ留学体験記
はじめに
2021年9月より、イタリア北部の都市ミラノにあるSan Raffaele研究所に留学をしております。海外留学は、医師人生の中で大きな決断になるかと思います。私自身、コロナ禍もあり、海外留学を現実のものとするまでに、様々な葛藤や困難がありました。しかしながら、留学から得られる経験や喜びもひとしおであり、この体験記が、これから海外留学を考えておられる先生の一助になればと思います。(2022年3月記載)
留学決定までの経緯
私は2011年に入局し、横浜労災病院で後期研修トレーニングをした後、2014年に大学院に入りました。それと同時に、肝炎ウイルスの研究で高名な名古屋市立大学ウイルス学の田中靖人教授の研究室に、国内留学致しました。そこで、アメリカのScripps研究所から帰国されたばかりの五十川正記先生のもとで、B型肝炎ウイルスとT細胞応答に関する基礎研究を始めました。研究生活は私にとって充実したものであり、諸先生方がなされてきたように、海外で経験を積みたいと思い始めました。また、もともと英語が得意ではなかったので、その上達のために日本語が使えない環境に身を置きたいとも考えていました。海外留学の希望がある事を五十川先生に相談したところ、Scripps研究所の同僚であったMatteo Iannacone博士が主任研究員になっておられるイタリアの研究室をご紹介頂き、Iannacone博士からも快く承諾を頂きました。大学院卒業後、いくつかの海外留学助成に応募し、運良く、上原記念生命科学財団より助成を受けることができましたので、イタリア留学を決めました。
渡航準備とパンデミック
財団より助成決定の通知があったのは2019年12月、新型コロナウイルスの発生が初めて報告された月でした。その時点では2020年夏から留学を開始する予定でしたが、感染拡大に伴い、労働許可証やビザの発給が止まってしまいました。水際対策が緩和された後でも、手続きの進行は非常に緩徐な状態でした。それでも留学する事を諦めず、少しずつ手続きを進めていき、1年半かけて、2021年6月に労働ビザを手に入れることができました。通常であれば、研究所との雇用契約や家族帯同ビザ取得を含めた諸手続きは4〜6ヶ月程度のようなので、思いがけず長期間待つことになりましたが、ちょうどコロナウイルスに対する1・2回目ワクチンが終わり、接種証明書が受け取れるようになったタイミングであったので、良かった面もありました。また、この待機期間中に、以前イタリアに留学されていた先生にも出会い、留学時の細かなアドバイスを頂くことができ、有意義でもありました。